夏目漱石「こころ」のあらすじ・名言から学ぶ人間性の教訓

日本を代表する文豪・夏目漱石(なつめそうせき)の「こころ」は現在でも世界中で愛されている名作です。数多くの文豪が鎬(しのぎ)を削った明治・大正期においても、突出して高い評価を受けた理由はどこにあるのでしょうか。

今回は夏目漱石「こころ」のあらすじや名言から、ビジネスや人生に活かせる教訓を得て行きたいと思います。

夏目漱石の「こころ」とは

「こころ」は、1914年に発表された夏目漱石の小説です。連載から100年以上経ちますが、現在でも世界中の読書家に愛される一作。「日本文学と言えば『こころ』」という方も多いはずです。

現代文の教科書にも載っており「日本で最も読まれている小説」と言っても良いでしょう。「吾輩は猫である」「坊ちゃん」「三四郎」などなど、世界的な名作を生み出した夏目漱石の代表作と言えます。

日本人らしい繊細なこころの機微、そしてエゴイズムと罪悪感のはざまで苦しむ人間のありのままを描いた不朽の名作です。

「こころ」のあらすじ【ネタバレあり】

「こころ」は、「先生と私」「両親と私」「先生と遺書」の三部で構成され、語り手の「私」の視点を通して「先生」との出会いや交流、心の闇、その原因となった過去について描かれます。

私と先生の出会い

鎌倉の海を訪れた私は、そこである男と出会います。人との交流を嫌い、仕事もしないろくでなし。しかしそんな彼の発する寂しげで独特な雰囲気に惹かれ「先生」と呼び親しむようになります。

先生との交流を深めるにつれ、私は静さん(先生の奥さん)に対する先生の態度に違和感を覚えるようになりました。一見円満に見える夫婦ですが、どこか突き放すような、あえて距離を取るような先生の態度。

私は先生にその理由を問いただしますが「話すべき時が来れば話します」とはぐらかされてしまうのでした。

先生の遺書

時は流れ、私は病気を患う父を看病するため、実家に帰っていました。明治天皇の崩御(ほうぎょ)と時を同じくして、先生から長い手紙が届きます。私は東京へ帰る汽車の中で、先生の書簡を読み進めていくのでした。

「あなたがこの手紙を手に取るころには、私はこの世にはいないでしょう」

書簡には、先生がずっと秘密にしていた過去や苦悩についてしたためられていました。

先生とK

学生時代、先生は故郷を離れ、東京に下宿していました。下宿先はとある軍人の遺族で、残された奥さんやお嬢さん(後の奥さん)との生活は、先生にとって安らぎと言えるものでした。

先生は家族関係のトラブルで住む場所に困っていた親友・Kを下宿先に呼び、共同生活を送るようになります。やがてKはお嬢さんに恋心を抱くようになり「お嬢さんに気あるので、応援してくれないか」と先生に相談します。

一方で先生も、お嬢さんに対して好意を抱いていました。しかし親友との関係に亀裂を入れるわけにもいかず、先生は本心を隠したまま、彼女との関係を深めていくことになりました。

先生はKには内緒で、お嬢さんとの結婚を取り決めてしまいます。やがて下宿先の奥さんからその事実を伝えられたKは、先生に祝福の言葉を伝えるも、その2日後に自ら命を絶ってしまうのでした。

先生はKへの罪悪感から逃げるように東京へ引っ越し、お嬢さんとの新生活を始めます。しかし友を裏切り、結果的に死に追いやった罪の意識や苦悩から逃げることはできず、先生は苦しみ続けます。

そして明治天皇の崩御をきっかけに、先生自身も自殺を決意するのでした。

「こころ」の名言

名作と呼ばれる小説からは、人生に気付きを与えてくれる、多くの名言が生まれます。「こころ」も名言の宝庫と言える小説の一つです。「これって夏目漱石の心の声なんじゃないかな」と想像しながら読むと、非常に興味深いです。

  • 精神的に向上心のないものは、馬鹿だ

常に自分に厳しく精進することを信条にしていたKが先生に発した言葉。「恋愛に現(うつつ)を抜かすなんてもってのほかだ!」というようなKの性格をよく表している一言です。そんなKも、下宿先のお嬢さんに心を奪われてしまいます。

日に日にお嬢さんとの距離感を縮めていくKに対し、嫉妬のような感情を覚えていた先生は「精神的に向上心のないものは、馬鹿だ」とかつてのKのセリフをそのまま返します。そこには「Kに恋を諦めさせたい」という先生の利己的な欲望がありました。

同じ言葉でも、状況や話者の感情によって、その意味は薬にも凶器にもなり得ます。先生がこの言葉を発したタイミングや状況を考えると、Kのアイデンティティを揺るがす毒のある言葉だということが分かります。結果的に、Kは自殺の道をえらび、生涯にわたって先生の苦悩を生み出す原因にもなってしまったわけです。

  • 然し……然し君、恋は罪悪ですよ

「恋は盲目」という言葉は現代でもよく耳にしますが「罪悪」とまで言ってしまう先生の言葉は印象的。

結果的に恋によって友を裏切り、生涯その罪悪感に悩まされ続けた先生の背景を知れば、その言葉の重みや説得力を感じることができますね。

  • 平生(へいぜい)はみんな善人なんです。少なくともみんな普通の人間なんです。それが、いざという間際に、急に悪人に変わるんだから恐ろしいのです。

いかに誠実にみえようと、人間である以上その心にはエゴイズムが存在します。仕事で同僚を出し抜くために嘘をついてしまった、上司から怒られるのが嫌で自分を守るために嘘をついてしまった。そんな経験をおもちの方も少なくないはずです。

状況次第でいくらでも残酷になれてしまうのが人間です。「こころ」では、先生自身も自分のために友人を裏切り、死に追いやってしまった「悪人」の一面に苦しみ続けることになります。

夏目漱石の「こころ」から学ぶ人間性の教訓

夏目漱石の「こころ」からは、ありのままの人間性を学ぶことができます。エゴイズムや残酷さ、裏切り、後悔や罪悪感。100年以上前の小説ではありますが、どれも現代社会を生きる私たちにも通ずる人間の一側面です。

ビジネスも突き詰めれば人間と人間のコミュニケーションに他なりません。コミュニケーションは互いの人間性をぶつけ、すり合わせる行為です。したがって、ありのままの人間性や心理について学ぶことは、ビジネスや人間関係を円滑に進める上で非常に重要です。

日本の古典作品には、人間の内面を深く追究した名作が数多くあります。中でも夏目漱石の「こころ」は日本文学の最高峰とも評される名作です。ぜひ一度手に取ってみてはいかがでしょうか?