備はらんことを一人に求むるなかれ|吉田松陰の名言

「備はらんことを一人に求むるなかれ」とは、「一人の人に完璧な能力を求めてはいけない」という意味です。これからは【ダイバーシティ(多様性)】を無視できない時代になります。各人の個性や能力を活かしてこそ、新しいものが生み出せる企業になりうるといえます。吉田松陰はこのような先進的な考え方をすでに説いていました。

備はらんことを一人に求むるなかれ

吉田松陰の「備はらんことを一人に求むるなかれ」の解説をしていきましょう。

原文

『備はらんことを一人に求むるなかれ。(中略)古語にも、「庸謹の士(ようきんのし)を得るは易く、奇傑の士(きけつのし)を得るは難し(かたし)」と云へり。小過(しょうか)を以て人を棄てては(ひとをすてては)、大才は決して得べからず。』(嘉永二年六月四日「武教全書 用士」)

訳「あらゆる能力が備わっていることを、一人の人に求めてはいけない。(中略)昔の言葉にも「平凡で慎み深い人を得るのは簡単だが、すぐれて傑出した人を得るのは難しい」と言っている。

解説

「1人に完璧な能力を求めてはいけない。」吉田松陰はそう説いています。能力のある人材を得ることは難しいことであり、足りないところは別の人材を活かすことで課題を解決しなさいと勧めているのです。

この言葉の出典となっているのは、江戸時代の儒学者「山鹿素行(やまが そこう)」によって表された兵学書「武教全書」です。「武教全書」とは、兵学の百科事典というべき書物。松陰はこの「武教全書」を使って松下村塾の門下生たちを指導していました。

「武教全書」は軍事的なテクニックだけではなく、武士としての道徳観も折り込まれた内容です。

吉田松陰の松下村塾は、自由な雰囲気を持った校風の塾でした。個性豊かな塾生たちを型にはめずに、その長所を大きく伸ばすことに主眼を置いていたといえるでしょう。まさに現代に通じる先進的な人材育成法だったということですね。

部下の個性を活かしてこそ、真のリーダー

これからは、企業において【多様性】が重要視される時代になります。特に日本では人口減の中で、性別や人種・国籍や身体障害の有無などは、働く上で問題にできない流れになっていることが理由です。

これから伸びる会社の必須条件|ダイバーシティとは?

ダイバーシティという考え方を聞いたことがあると思います。吉田松陰の思想に通じるものですよ。

注目の考え方【ダイバーシティ】

多様性を重んじる考え方を【ダイバーシティ】と言い、「多様性の受容」という言いかたもできます。色々な人間性を尊重する企業こそが人材を活かし、その結果業績をあげていけるといえるでしょう。

人口の減少問題だけではなく、企業もグローバル化が避けられない時代ですので、多様な人間性を尊重する雇用方法が必要です。

ダイバーシティを活用した企業|その具体例

外資系の企業などは、もともと個人が大切にされる雇用形態です。その影響も新しい日本の企業風土を作る背景になっているかもしれません。日本でも大企業においては、この【ダイバーシティ】の考え方を取り入れる会社が増えてきました。

大手の金融サービス会社【O】での例をあげてみましょう。社内での多様性・個性を尊重する取り組みとして、各部署で社員をトレードする方式などを実験的に取り入れているそうです。まるでプロ野球のFA宣言のようですね。

これにより【O】株式会社では、分野の違う部門への社員の異動を可能にし、社員のチャレンジ意欲を活かしているといえます。実際に会社に勤めていく上で、上司や本人が改めてわかったその人の個性を、さらに適職へ就かせる効果があるのではないでしょうか。

吉田松陰の考え方は、まさに先進的思考法

日本では昔から人同士の協調が重要視されていたので、個人の主張がしにくい風土だったといえます。しかし、これからの時代に生き残ることができる企業になるためには、各人の【多様性】を尊重し活かしていく考えが必須になってきているといえるでしょう。

吉田松陰の松下村塾ではすでに時代を先どりした、このような考え方を教えていたのです。

社員の個性を活かす会社が発展する

ダイバーシティ【多様性】の考え方~人種・性別なく、障害者・高齢者も活用する~だけではなく、多様な【個性】を活かす企業こそが、これから求められている会社と言えます。

文系・理系の違いも個性

たとえば文系・理系の違いも【個性】ということができます。文系の中に理系が1人混じっていたら、それだけで理系の人の考え方は「あの人は個性的だ」と言われることになるかもしれません。

しかし、PCなどに強い理系は職場に居てくれたら間違いなく活躍してくれます。具体的に戦力になるだけでなく、理系独特の思考方法は文系にとって新鮮さがあり、仕事の上でのアイデアになることも多いでしょう。

個性学における人間の多様性

個性学などの個性を見極めようとする学問もありますよ。石井憲正によって学問化された個性学によると、人間は持って生まれた「先天的な性格」と後からの人生の環境などによる「後天的な性格」、その両方が混じり合ってその個性が作られているとされています。

人間の個性を細やかに考えていくと、12星座や4血液型などだけで分けられないほど、そもそも多様なものであるといえますね。

これからの企業の人材登用とは

つまり、人を活用する上で大切なことは【個性を見極めて】使うということ。このとき人間の1つの面だけでなく、多角的な面から人をとらえることが大事です。事務仕事をするときに大ざっぱに見えて「使えない人だ」と評価されていた人が、人間関係を作る上ではそのおおらかさが役に立つということもありえるのです。

色々なタイプを上手に適材適所し大きな流れを作っていくことこそ、これからの上司や会社に求められていることといえるでしょう。

吉田松陰の教えは、未来における先駆的な考え方

日本人は常に周囲を気にし、皆と歩調を合わせる点が美点であるといえますね。しかし、周りを気にするあまり、出る杭(くい)を打つ時代は終わりました。

吉田松陰がすでに説いていたとおり、これからはビジネスにおいても、各人の個性が尊重されるようになるでしょう。それぞれの個性から生み出される知恵を持ち寄って力を合わせることができれば、今後も伸びてゆく会社が作れるのではないでしょうか。