無用の言を言はざるを第一戒と為す|吉田松陰の名言

『無用の言を言はざるを第一戒と為す』の意味とは。吉田松陰は自らを多言な性格だと言い、多言について注意を促す言葉を多く残しています。思ったことをつい口に出してしまい後悔した経験はありませんか?なぜ松陰は多言に注意を促したのか、彼の名言から自らの発言や言葉に対しての大切さを学んでいきましょう。

無用の言を言はざるを第一戒と為す

『無用の言を言はざるを第一戒(だいいっかい)と為す』は、多くを話しすぎることで敬いや真心の気持ちを失ってしまうことを説いた言葉です。吉田松陰自身が多言であると自覚していたため、無用なことは口にしないと戒めました。

原文

『吾(わ)が性多言(せいたげん)なり、多言は敬を失し誠を散づ、故に無用の言を言はざるを第一戒と為す』(安政六年正月二十四日『李卓吾の「劉肖川(りゅうしょうせん)に別るる書」の後に書して子大に訣(わか)る』より)

訳「私の性格は多言である。多言であると敬いの気持ちを失い、真心ががちりぢりになっていく。だから無用なことは口にしない、ということを第一の戒めとしている。」

解説

子大は松下村塾門弟の作間忠三郎昌明の字(あざな:成年後別名の他に付けられる名前)です。

松陰は自分に多言な所があってはいけないとしばしば言っており「大切な問題を世間話にしてはいけない」「日頃ぺらぺら喋る男は大切なときに必ず黙る」など、多言を警戒する言葉が多く残っています。

『無用の言を言はざるを第一戒と為す』という言葉は、多くのことを話し過ぎると敬いの気持ちや真心がなくなってしまうことを説明しています。

男たるもの思った通りに何でも口にしてしまうようではいけないと、松陰は考えていたのです。

吉田松陰はなぜ多言に注意を促したのか

吉田松陰はなぜこんなにも、多言に注意を促す言葉を多く残していたのでしょうか。

もともと松陰は誠の心を持ってすれば、達成できないことはないと言っていたことからも、真っすぐな性格だったことがわかります。教え子たちに対しても常に丁寧に接して、見下すような態度は取りませんでした。

人に対して常に誠意のある態度で接して、思いやる気持ちを持っていたからこそ、余計なことを口にして不本意に人を傷つけることを避けていたのです。

教育者でもあり武士でもあった松陰にとって、人を敬い真心を持って接することは肝要なことだと考えていたのでしょう。

「誠」に敬意を払い余計なことを言わない

「武士に二言はない」ということわざがありますよね。武士は一度口にしたことは取り消さない、つまりは嘘をつかないという意味です。

当時武士が軽はずみな発言をすることは、弱い男だと思われ軽蔑される行為でした。武士にとって弱いと認識されるのは、不名誉なことです。

武士道の基本理念に「誠」という徳目があります。嘘をつくような行為は武士にとってあってはならない、武士の言葉や行いには嘘偽りがないという教えですね。武士に二言はないという言葉は、誠を貫く精神から生まれたと言われています。

松下村塾の創設者というイメージが強いですが、武士としても業績を残した吉田松陰。武士でもあった松陰は、「誠」に高い敬意を払っていたのです。

余計な発言をしないことの大切さ

吉田松陰が生きた時代は、ちょっとした発言が国を動かすような大きな事態を招いてしまうことも有り得ました。家族以外の人間を信用することが難しい時代でもあったことも、無用なことは口にしないと戒めた理由の1つでしょう。

しかしながら現代でも、何気なくした発言が大きなトラブルを招いてしまうことがあります。

例えば親しい人と世間話をしているときに、その場にいない人の悪口を言ってしまったなんて経験ありませんか?もしその場にいた人が悪口を本人に伝えてしまったら、言った人と言われた人の関係は壊れてしまいますよね。

また悪気がなく言った発言でも、相手を傷つけてしまうことだってあります。

発言をする前に頭のなかで本当に言っていいことなのかを考えましょう。一度した発言は、取り消せません。言葉には大きな力が存在しているのです。

嘘をつかないことの大切さ

武士でもあった吉田松陰は、誠の心を持って人と接することを大切にしていました。嘘をつかず真っすぐに向き合うことで、人から信用されることをわかっていたからです。

現代においても、嘘をつく人間は軽蔑されますよね。

相手を陥れようとして事実ではない話をしたり、相手にとって不利になる偽りの情報を流したり、悪い嘘は人を傷つけてしまいます。そんなことを繰り返す人間を、信用する人などいません。

誠の心を持って接しなければ、人は離れていってしまうのです。

『無用の言を言はざるを第一戒と為す』から現代人が学ぶこと

『無用の言を言はざるを第一戒と為す』という言葉には、相手を敬い真心を持って接することの大切さが込められています。

吉田松陰は現代に語り継がれている数々の名言やエピソードからも、誰に対しても対寧に誠意を持って接していたことがわかります。そんな松陰だからこそ、多くの人に慕われその思想や考えを教え子たちが引き継いできたのでしょう。

松陰の教えからは、人から信用される立派な人間になるためには、無用なことは言わず至誠を持って人と接することが大切だということがわかりますね。